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【小説】69年間待ち続けた男、在る鉄道マンの半生 第61話  

第61話 徹路の苦悩


徹路は寮に残っていた6人一人一人に頭を下げて回った。
彼らは、徹路が近鉄の現場で監督をしていた頃からの長いつき合いで、何れも60才以上の高齢者だった。復員兵で戦後近鉄の復興期から、一緒に現場で苦楽を共にした仲間も居る。彼らは、鉄路の旗揚げを知り全国から集まってきてくれた人たちである。


『亀さん済まない、私の力がいたらなくて』
『イヤ良いんだヨ、俺れもこの辺りが引け時きかと思っていたんだ。』
『申し訳ない…』
『手を上げてくれ、徹路さんのおかげで、年金も貰えるようになったし、田舎にでも帰ってのんびり暮らすことにするよ』
『亀さん…』


『建さん申し訳ない』
『そうだよ、ひどいよ出てけなんて』
『ほんとに済まない』
『俺はまだまだ働けるんだから…徹路さんも知ってるだろ?』
『ああ、よく判ってる、…』
『だったら、…』
『建さん、許してくれ、会社が…』
『会社って、徹路さんの会社じゃないか?』
『金造君に社長を譲ったモンだから…』
『ジャー、金造が首にしろって言ってるのか?』
『イヤ、金造も辛いんだが、会社が左前に成ってしまって居るんだ』
『左前?』
『気楽に考えていた、ワシが悪いんだ許してくれ』
『…まあ徹路さんにそう言われたら仕方無いけど、俺はまだまだ若いモンなんかに負けないくらい働けるんだけどな…』
『済まない…』
その若い連中から、名指しで役立たず呼ばわりされている事など本人に言えなかった。



『作治さん、済まない』
『金造さんから聞いてるで、』
『聞いててくれたか、済まない』
『まあエエがな、徹路さんとは、あちこちの現場で楽しゅうでけたし、もおええ思い残すこともないわ』
『思い残すことだなんて、作治さん』
『徹路さんのおかげで、小銭も貯まったし、どっか養老院にでも行くは』
『養老院だなんて、作治さん』
『若いモンから役立たず呼ばわりされてることもしっとった』
『…』
『実は、肝臓悪しとって、最近めっきり身体が言うこと聞かんようになっとんたや』
『最後になって、徹路さんに心配懸けてもうたは、堪忍してや』
『作治さん、謝らなけりゃいけないのは、こっちのほうだよ』
『徹路はん、かまいんネン、気い使わんといて』
『俺で、出来ることがあったら何時でも要ってきてくれ』
『そやな、葬式の時に弔辞でも頼むハ、ワ、ハ、ハ、…』



ただ1人74才になる、山田耕筰だけは、身よりもなく、元気で働ける内は、徹路と一緒に近鉄の仕事をしたいと言うので。


バブルの時に作った、鉄路警備に移ってもらい、ガードマンとして残って貰うことにし、徹路が保証人になって数少なくなった近所の文化住宅を借り、住まわせることにした。


<続く>

[2008/03/20 12:51] 鉄道小説 | TB(0) | CM(0)

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