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【小説】69年間待ち続けた男、在る鉄道マンの半生 第60話  

第60話 タヌキ親爺(資材部長)との攻防


5月に入って金造にアポを取らせ、近鉄資材部を表敬訪問した。


資材部にいり接客カウンターでしばらく待つと担当の谷村主任を伴って篠田部長が現れ直々に出迎えてくれた。


『布施さんお久しぶりです、ようこそいらっしゃいました。』
『ご無沙汰しております篠田さん』
『部屋を用意させています、まあこちらに』
『有り難う御座います。』
金造と徹路は応接室に案内された。
『紹介しましょう、お宅の担当をしている谷村君です』
『谷村ともうしますヨロシクお願いします』
『布施です、いつもお世話になっております』
『堅苦しい挨拶はさておいて、まあおかけ下さい』
『有り難う御座います。』
『ご御大自らわざわざ足をお運びいただいて恐縮です』
『こちらこそ永らくご無沙汰しておりまして、』
『どうです、久しぶりの近鉄本社は?』
『ずいぶんと変わりましたね』
『いや、開かれた近鉄をイメージして、改装したんですよ』
『ハー、そうですか』
『ここんところ、ズーと景気が悪くてね、暗い話題ばかりなんで、”チャレンジする近鉄、開かれた近鉄。”を目指してイメージを一新しようと思いましてね』
『それは結構なことですね』
『鉄路さんにはいつも大変お世話になっていて、感謝いたしております』
『いや、とんでもないこちらこそお世話になっておりまして。』
『実は、いらっしゃると聞きまして、丁度良かったと、それがお願いしたい件がありまして、』
『お願いと申しますと?』
『本来なら、こちらから出向いてお願いに上がらなければ成らない件かも知れないのですが。』
『いや、わざわざお出ましいただかなくても』
『いや、恐縮です、それが見積もりの件なんですが』
『見積もり?、金造君、近鉄さんから引き合いを戴いているのか?』
『はい、5件ほど』
『なら、早く言いなさい!、お忙しいところ、部長にお時間を戴いたのだから』
『イイエ、その件はお伝えしていなかったんで…。』
『はあ、何か、特別な事でも…』
『実は、提示いただいている金額が』
『個々の案件については金造君に任せている物で、細かいことは…、』
『イイエ、個別の件はわたしも谷村君に任せている物で判らないのですが、時節柄、実行予算を厳しく締め付けられている物で!』
『ハア…』
『実は言いにくいのですが、今後はお見積もりいただいた金額の30%は無条件にカットさせていただき、その上でそこから更に交渉させて戴くと言うことにさせていただきたいのですが』
『無条件に、3割カット!そこから更に値引き?部長、それじゃヤッテけませんよ!』
『そこを何とか、この通りです、なにとぞ一つご協力をお願いします。』


篠田は応接机に、手をついて、徹路に懇願した。


『部長、手をお上げ下さい。』
『…。』
『判りました、その件は社に持ち帰り、検討させていただきますから、どうぞ手をお上げ下さい。』
『そうですか、承知いただけますか、有り難う御座います。』
『いや、検討すると申しただけで…』
『それじゃこの件はお終いにして、ひさしぶりにお会いしたのだから、今日はゆっくりしていって下さい、あとで社内をご案内しましょう』
『イイエ、部長こそお忙しいのに』
『とんでもない、後御大がお見えに成ったんだから、歓待しなくては。ああ谷村君、君は石部社長とお話があったんだろう、ご御大は私がお相手しておくから、君たちは席を外して商談室にいってくれてかまわないよ。』


篠田部長は、部下の谷村に目くばせをし、金造を連れ出させた。


『所で、お孫さんもずいぶん大きく成られたそうで』
『ハイ、長女のところが19才で大学に通っています、金造のとこが長女が18で長男が16です』
『そうですか、もうそんなに成られましたか、我々も年行くわけだハ、ハ、ハ…』


お願いに行ったつもりが信太のキツネならぬ阿波のタヌキ親爺にまんまと一杯食わされ、返り討ちに遭い、すごと引き返す羽目になってしまった。


<続く>
[2008/03/19 21:20] 鉄道小説 | TB(0) | CM(0)

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