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【小説】69年間待ち続けた男、在る鉄道マンの半生 第58話  

第58話 金造の反旗その1


1996年(平成8年)4月のある日、金造が娘未來を伴って徹路の居る技術開発室に入ってきた。


『お父さん相談が有るんですが』
『何だ金造君』
『実は鉄路建設さんが、この本社ビルの3、4階をまとめて借りたいと言ってきたんですが』
『何のために?』
『バブル後にリストラした会社も順調に業績が回復し、布施駅前の貸しビルでは手狭になって、技術部の移転先を探していたそうなんです』
『で…?』
『家の本社ビルだったら、隣に広い駐車場もあるし丁度良いから、どうかと言うんです』
『そうか…、でも3階4階はに使って要るんだぞ』
『ハイ判ってます。実はその件なんですが』
『どうした?』
『実はいいにくいんですが、は廃止して、賃貸のワンルームマンションに改築しようと思っていて、鉄路建設さんに相談したんです』
『何!』
『怒らないで聞いてください、今残った40部屋ぐらいのうち常時使っているのは6部屋だけなんです』
『それぐらい知ってる』
『で今の時代、その古参6人の為だけに、掃除のおばさんを雇い、電気代や水道代、何やかんやでの維持管理費が年間にすると馬鹿にならないんです。』
『…』
『一階の食堂だって、毎月大赤字です。』
『ワシや2階の本社の連中も使ってるだろう?』


未來が口を挟んできた


『何いってんのよ、社員食堂にしては、中途半端に狭くて全員入れないし、折角来た仕出し弁当の給食屋はお父さんが追い返すし、仕方なく近所のコンビニで弁当買って済ましている人が多いのよ』
『そうだったのか』
『それで、本社の総務や技術の連中からは、”社長、あんな老人クラブみたいな食堂どうしていつまでも続けているんですか?”って不満が出て要るのよ!』
『…』
『若い人たちも怒ってるのよ、”あの老人達は、二言目には、昔はこうだった、今の若いモンは…、そのくせしてダンプ、ローダー、バックホー何一つ運転できない、現場では、雑用位しか出来ない”って。』
『それは言い過ぎだろう』
『言い過ぎなんかじゃないは、そんな人たちのために毎月大赤字出してまで、寮や食堂なんて要らないわ!』
『そんなに苦しいのか?』
『そうよ、お父さんが、どんどん要らない物を買うから』
『要らない物?』
『そうよ、軌陸車だって、お父さんが、”軌陸車も持たない鉄道屋は無い”と言って買ったけど、年に何度使ってるの?』
『…』
『うちに軌陸車があるって知ってるから、同業者がどんどん借りに来るけど、良いように利用されているだけよ!』
『何だって!』
『だってそうでしょう。タダじゃ申し訳ないからって、レンタル料を払うって言ってるのに、うちはリース屋じゃないから、そんな物受け取れないって、気前よくタダで貸して。あの車、整備費や何やらで年間いくら掛かっているのか知ってるの?』
『それは…』
『お父さんが、人の良いのにつけ込んで、よってたかって良いように利用されているのよ!』
『お前、それは言い過ぎだろう!』
『今は昔と違うのよ、建機なんかみんなリース屋さんからリースか、レンタルの時代よ、何でもかんでも自前々って、レンタルで済むような物まで買って、おかげで乗用車一台買えないじゃないの!』
『そんなこと無いだろう!トヨタのセールスが好く来ているじゃないか!』
『なにいってんのよ、お父さんが、従業員の送迎車が古くなったから9人乗りのハイエースが欲しいとか、2トンダンプが調子悪いから新車に買い換えろとか?営業車が古くなったから買い換えろとかしょっちゅう言うモンだから仕方なく呼んでるだけよ』
『…』
『お父さんが、次々に要らない物を買え買えって言う物だから、社長車を買う余裕も無いじゃないの?資材置き場を見てよ、現場で使ってないものが、山のように成ってるじゃないの!』
『…』
『姉さんとこなんて、共働きなモンだから、3台も車持ってて、姉さんはヴィッツだけど、旦那様がアウディ、息子さんにはセリカに乗らせてるのよ!、なのにうちなんか主人がゴルフ場に行くのに、10年前のマークⅡでいってんのよ!よその会社の社長さんは、セルシオや、ベンツで乗り付けて来るって言うのに、』
『お前が、言った様に、会社に新車が有るじゃないか』
『ゴルフに、4ナンバーのライトバンで行けないでしょう!』
『だったらゴルフなんかしなくても良いじゃないか?』
『そんなわけに行かないでしょう、お付き合いなんだから。お父さんが、”ワシはつき合いは苦手だから金三君頼む”ってみんなうちの人に押しつけといて。』
『ジャー行かなければいい!』
『”ジャー行かなくて良い”って、よくもまあそんなことが言えるわね!』
『未來、やめなさいもういい』
『何よ、貴方の代わりに言ってあげてるのよ!』


未來は泣き出してしまった。


<続く>

[2008/03/17 21:00] 鉄道小説 | TB(0) | CM(0)

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