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【小説】69年間待ち続けた男、在る鉄道マンの半生 第48話  

第48話 徹路とJV


1985年(昭和60年)バブル経済が訪れる2年ほど前。
戸田ー伏屋間の立体交差事業を大手ゼネコンとジョイントベンチャーを組んで施工することとなった。そして鉄路が幹事会社となり施工監理を一手に引き受けることとなった。


徹路は張り切った、創業以来苦節8年初めて、の大仕事である。
精鋭部隊を集め、毎日、現場を見て回った。
そんなある日、JVを組んでいる大手ゼネコンの橋脚の型枠工事現場で、スペーサーを入れずに組んだ型枠が、鉄筋に接触しているのを発見した。
徹路は早速現場で作業をしていた型枠工に注意した。


『君、チョット君』
『うるさいオッサンやナ、キミキミって、ワイはタマゴの黄身やないで!』
『そうか、済まなかった。』
『何やネン、忙しいんや、用があるならハヨ言えや!』
『作業中済まない、だが、何故スペーサーを入れずに型枠を組んだのかね』
『スペーサー?』
『ほら、これだよ』
徹路はポケットから、偶々持っていたスペーサーを出して見せた。『ああ、スキーのストックについてるアレかいな?』
『ストックについているのとは違うが、こうヤッテ、鉄筋にはめて鉄筋が型枠に直接当たらないようにするための物だ。』
『エー、そんなモンあるんかいな?』
『そんなモンって、君ん所では使ってないのか?』
『そんなモン初めて見たわ!』
『施工手順書で使うことになってるだろう!』
『そんなモンシラン、用が終わったらサッサト行ってや!邪魔や邪魔や』
『君たちこそ、作業を中断したまえ』
『何処の何奴か知らんけど何言うとんネン、サッサトあっち行けや!』


徹路は、現場監督の元に駆けつけ工事を中断させ、手順書を遵守するように注意した後工事事務所に帰り建設所長をしている大手ゼネコンの社員に抗議した。
小一時間もしない内に、旧知の大手ゼネコンの工務部長が現場にやってきた。


『布施さん、困りますね』
『部長、どうかなさいましたか?』
『どうもこうも、布施さん一つお手柔らかにお願いしますよ。』
『何の事ですか?』
『今朝方の件ですよ』
『今朝方?』
『現場所長をしている、うちの若い者から電話があって、布施さんが大張り切りで、下請けを叱るものだから、下請けが現場を引き上げるって大騒ぎに成ってしまったらしいんですよ』
『引き上げる?』
『そうですよ、元請けでもないのに、偉そうなこと言う爺さんの居る現場なんかで働けるかって、』
『偉そうなこという爺さんって?』
『いや、失礼、とにかく大変な剣幕で、やっと宥めた所なんですよ』
『私は、間違ったことは言ってないつもりだったんだが、ご迷惑をおかけして申し訳ない』
『私も、長いお付き合いだし、布施さんが良かれと思ってなさったことだとは思ういますが、今後は一つ穏便にお願いしますよ。』
『へ、見て見ぬふりをせよとおっしゃるので?』
『そう言う訳ではないのですが、鉄路さんだけじゃなくて、色んな会社が入ってるモンで、そこん所を一つ宜しくと申し上げているわけで。』
『納得いきませんな…』
『そうでしょうが布施さんとは永いお付き合いでもあるし、鉄路さんには、この現場だけでなく今後も色々お願いしたいと思っていますし、私の立場も有りますので、その辺の所を考慮いただいて、一つご配慮いただけないでしょうか?と申し上げているので…』
『…判りました部長がそうおっしゃるのなら、今後は差し出がましい事は控える事にしましょう。』



徹路は、改めて世知辛い世の中に成ってきた物だと痛感すると共に、昔自分が現場で指揮を執っていた頃の、あの頃の近鉄が懐かしく思い出された。
これ以来、JVの話は一切引き受けないように成った。


<続く>
[2008/03/02 21:43] 鉄道小説 | TB(0) | CM(0)

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