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【小説】69年間待ち続けた男、在る鉄道マンの半生 第44話  

第44話 初孫誕生と金三の決意


この年から翌年にかけては徹路が在職中に手がけた工事が相次いで完成した。


6月に祝賀会が開かれた、布施駅立体交差及び奈良線八戸ノ里までの連続立体交差事業、同じく大阪線の長瀬駅までの連続立体交差事業。


同月橿原線 大和郡山ー平端間の筒井駅周辺立体交差工事。


そしてこの年9月待望の初孫を長女由有紀が出産した。
父親と同じ立派な技術者になるようにと大志(たいし)と名付けられたこの子は4000gのまるまるとした大きな男の子であった。


翌1978年(昭和53年10月には次女未來が長女美里を出産した。


12月には大阪線久宝寺口ー八尾駅間の連続立体交差事業


阪神電鉄も同年6月には大物ー姫島間の連続立体交差事業を完成させていた。
そして翌1979年(昭和54年)3月東大阪線後のけいはんな線の長田ー生駒間が着工された。


徹路の会社 有限会社鉄路は前前年10月から噂を聞き、集まってきたベテラン土工達で細々と開業していた。


開業早々、社長の計らいで、近鉄と異例の直接契約口座が開設でき10月から前出の、大阪線八尾駅周辺高架工事の追加付帯工事を請け負っていた。側溝や排水溝の新設や仮線の撤去工事等であるが。10人程の小さな会社には十分な仕事であった。
徹路も毎日現場に出かけられるので、ご満悦であった。


南大阪線川西駅周辺工事も始まっていたので、仕事は次々入ってきた。
現場工事以外にも、不本意ながらの、コンサルタント業務も大手建設会社から、受けていた。


この仕事は、近鉄の工事関係にのみ絞って受けていたが、徹路は現場に出て、土工達と楽しくやるのが、夢であったし、好きであった。


そんな、コンナで慎ましやかではあるが、順調にスタートした鉄路ではあったが、1978年(昭和53年)5月に、娘未來に付き添われて、婿の金三が突然自宅兼事務所を訪れた。


『お父さん、いや社長。実はお願いがあって参りました。
『お願い、とは何だね、家でも建てる気になったのかい?』
『いえ、じつは…』
娘が口を開いた。
『いえね、実はこの人、急に会社をやめると言いだして』
『そりゃまた、穏やかではないな!』
『そうなのよ、それでお父さんにお願いしたいことが有るからついて行ってくれって言うもんだから』
『それで、この私に何の頼みなんだ』
『ハイ、私を使ってください!』
『いったい急に、何を言い出すんだ、会社をやっているとはいえ、10人ばっかの個人商店だ、俺が死んだらどうなるか判らない店だぞ、近鉄をやめて何で先の判らない俺の所になぞ、近鉄で問題でも起こしていられ無くでもなったのか?』
『イイエ、そう言う訳ではありません』
『なら、何なんだ話してみたまえ』
『はい、私は、部長、いやお父さんの数多くの論文を見て、お父さんに憧れて、近鉄に入社しました。』
『それは、聞いておるが…』
『それで、部長が定年で、身を引かれて、会社をお作りになると言う話を聞いた、時から。ずっと将来は、部長のおそばにと思っていたんです。』
『オイオイ、有り難い話だが、時代劇じゃ有るまいし、そんなことで、…』
『そうなよ、私もこの人に言ったのよ、今時そんな話はとおりゃしないわよって』
『そうだ、娘の言うとおりだ、君は今年主係長になったそうじゃ無いか』
『はいよくご存知で』
『近鉄にはまだまだ、やらなきゃ成らないことが沢山ある、近鉄にいれば、君にもチャンスは回ってくる。』
『ハイ、それは好く承知しております。』
『ならそんな馬鹿なこと考えずにそのまま近鉄に残りなさい。』
『いえ、僕はもう辞表を出してきました。』
『何だと…』
『この通りです、お願いします』
『貴方、なんてことしたのよ!』


娘の大声で、はっと我に返った。


”俺だって、いい話を全部蹴飛ばして、自分のやりたい道を選んだんじゃないか、この男にもそれだけの覚悟があるんでは”


『良いから、頭を上げなさい』


ソファーにかけ直し、じっと金三の顔を見つめ直してみた。
風采の上がらない婿だと,見くびっていたが、よく見ると目の奥に決意のようなものと、夢に立ち向かう男の決意のような物が感じ取れた。
しばらく、考えてから。


『判った、いつからココにこれる?』
『お父さん!』
『良いじゃないか、金三君にも夢を見させてやろうじゃないか』
『有り難う御座います』
『お父さんったら、私もう知りませんからね!』
『まあまあ』


一週間後、引き継ぎを終えた、金三が有限会社鉄路にやってきた。



<続く>
[2008/02/08 22:30] 鉄道小説 | TB(0) | CM(0)

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