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【小説】69年間待ち続けた男、在る鉄道マンの半生 第27話  

第27話 国分太郎との出会い


翌週2月1日(月)初七日も終え、久しぶりに本社に出社した。
中川短絡線の実施計画に目を通し、葬儀に参列してくれた人たちに挨拶をして回り、、午後からは他部署との連絡会議とスケジュールがびっしり詰まっていた。
感傷にふけっている場合ではなかった。


3月由有紀の卒業式には、母寿美が、参列してくれた。次女未來の終業式が終わり、娘達たちに春休みが訪れた。
彼女達は姉妹の祖父庄一が住む吉野の里に、お婆ちゃんと連れ立っていった。それ以降、夏休み、冬休みと、休みが訪れる度に、姉妹は徹路の実家で過ごすこととなった。


そして、4月長女由有紀がお婆ちゃんに連れられて、中学校に入学した。

この年は、その後に続く、名古屋線の改修工事の仕上げ、最後に残された単線部分、江戸橋ー津ー津新町間約4㎞の複線化工事の準備、翌翌年の1962年(昭和37年)から着工予定の新生駒トンネルと新向谷トンネルの最終設計と奈良線全線の大型車両導入に伴う建築限界の変更に伴う軌道間隔拡大工事実施計画の策定等、土木部は目も回る忙しさだった。
しかしこの年の前半は前の津ー津新町間の複線化工事以外着工された区間は無く、徹路も実母と娘達が住む、自宅から通える日が続いた。


この年はダッコチャン人形が大流行した年で、徹路も娘達の為に系列百貨店のオモチャ売り場に並び買って帰ったり出来る余裕もあった。


同年9月16日創立50周年を迎えた近鉄は、当時のあやめ池円形大劇場で徹路達約1000人の出席者を招待し記念式典を催した。
記念式典に先立ち、人事異動を発表し、山本本部長が鉄道事業本部本部長に、そして土木部長になって3年の徹路が企画統括部(旧技術本部)部長に昇格した。


翌年1961年(昭和36年)3月、前年の10月から着工していた中川短絡線がようやく完成し
た。そして29日名阪ノンストップ特急が運行を開始した。


その年の4月、後に近鉄の社長となる国分太郎が入社してきた。
1940年(昭和15年)生まれの国分太郎は、戦後の新しい教育制度で育った才人だった。北野高校から大阪大学に進み土木工学科を卒業した変わり者だった。


4月のとある日、徹路は朝早くから、難波線建設のため上六に移った企画統括部分室の庭掃除をしていた、そこに背広姿の見慣れぬ青年が現れ、いきなり声をかけてきた。


『オッチャン…朝から精出るな、企画統括部分室ってココかいな』
『アアそうだ』
『ワイなー、今日からここで働くことになっったんや、宜しゅう頼むわ』
『そうか…』
『ナンや、無愛想なオッサンやな、まあエエわ、そいでやな』
『どうかしたか』
『いそがせんかてええがな』
『わるかった』
『うにゃ、聞きたいのはナ、布施徹路て言うオッサン知っとるか?』
『まあ一応…』
『ほいでやな、そのオッサンとこで、働くんやけど、どんなオッサンや?』
『どんな人かって?』
『ほや、噂では、エライ、変骨で頑固なオッサンやと聞いとるんやけど?、本(ホンマ)はドナイやネン』
『私はいい人だと思うよ』
『本(ホンマ)か?』
『ああ物わかりが良くていい人だがな』
『まあエエわ…、アカン、コンナとこで話しとったら、時間におくれるは、オッチャン精出してがんばってや』
『ああ、有り難う、君もナ』
『ん、おおきに、ほな行ってくるハ』


口は悪いが、気さくで気だての良さそうな青年だと思った。


徹路が、部長室に戻ると、先ほどの青年が手前のソファーに腰掛けて、お茶をすすっていた。


『オッチャン、コンナとこに来たらアカンがナ、部長に見つかったら怒られるでえ』


徹路は黙って、脇のロッカーを開け、ネクタイを締め、上着を真新しい作業衣に着替えた。
青年は、あっけにとられて見ていたが、部下の女子社員がお茶を運んできて、やっと状況を理解できたようだった。


『失礼します』
『入りたまえ』
『部長、お早う御座います。』
『やあ、お早う』
『お茶を持って参りました』
『有り難う、そちらの机に置いておいてくれたまえ』
『ハイ、それでこの方が先ほどからお待ちですが』
『ん、判った』
『しつれいします』

と言って彼女は立ち去った。


国分は恐縮したように、立ち上がって

『お早う御座います、初めまして、こ…国分太郎ですヨロシクお願いします。』
『布施です、よろしく』
『先ほどは失礼いたしました。』
『…、ああ良いんだ、気にしなくて』


徹路は笑いながら国分に問いかけてみた。


『どうだ、聞いていたとおりの、頑固親父か?』
『ハ…イイエ、…申し訳ありませんでした。』
『そうか、君のことは、総務部長から宜しく頼むと言われている』
『ハイ、申し訳ありません』
『そう、恐縮しなくて良いよ』
『今、課長に案内させるから、しばらく待ちたまえ』
『ハイ、有り難う御座います。』
『…ん』


徹路は受話器を取って、部下の井上課長に冗談めかして内線した。


『井上さん、新人さんがお見えになったので、宜しく頼むよ、』
『…ハイ、ただ今』


<続く>


[2008/01/16 21:08] 鉄道小説 | TB(0) | CM(0)

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