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【小説】69年間待ち続けた男、在る鉄道マンの半生 第8話  

<第8話 従軍そして帰還>


1941年(昭和16年)9月徹路の配属された鉄道第九連隊は泰緬鉄道(たいめんてつどう)建設のため、ビルマに派兵された。この年の12月8日日米開戦、すなわち太平洋戦争が始まった。


既に1938年(昭和13年)4月に日本を出航した第5連隊がタイのバンコクに上陸タイ側からの着手準備は終わっていた。徹路の配属された第9連隊のビルマ到着を待って、開戦の翌年1942年(昭和17年)タイ側、ビルマ側同時着工で工事が開始された。


泰緬鉄道の建設現場は徹路が思い描いていたような現場では無かった。仲間は食料不足からくる栄養失調とコレラやマラリア等の熱病でバタバタと倒れ戦病死していった。


正確な地図も無い山岳地帯を偵察機の航空写真を下にルートを決め、測量しながら、図面を起こし後は人海戦術でがむしゃらにツルハシと”もっこ”で土を運び、路線を延ばしてく工事であった。セメントはジャングルの湿気ですぐに使えなくなり。殆ど、材木と石積みで工事を進めるほか無かった。


徹路は工事が始まって間もない1942年6月資材を運んできた貨車の荷役を指揮中に荷崩れ事故で右足に複雑骨折の重傷を追った、”食料、医薬品供に乏しく、現地では.十分な治療も受けられない”との連隊長判断で、すぐに港に移送、運良く寄港していた病院船で手術をし、7月の帰りの補給船で内地に送還、同年9月内地に無事帰還出来た。その 後泰緬鉄道は多数の犠牲者を出しながら、翌年1943年10月に完成した。戦地に残された連隊の多くの仲間達は、二度と内地の土を踏むことはなかった。


徹路は内地帰還後陸軍病院に入院、1ヶ月後に退院し、同時に除隊となり、暫くは故郷の吉野に戻って体を休めることにした。


除隊の報告をするため恩師を訪ねた、教授は半地下のかび臭い研究室にいた。

『ただ今戻りました』
『うん、…』
『無事で良かった』
『どうだ、今度こそ研究室に戻ってくるか?』
『…、暫くは故郷に帰って、静養しようと思っています。
『そうか、そうした方が良い…』
『いつでも相談に乗ってやる、又訪ねてこい。』
『ハイ有り難う御座います。』
教授は、目にうっすらと涙を浮かべていた。


帰りの途中浅草橋の叔母の家を訪れた。


『ごめん下さい』
『ハーイ…』
『布施徹路、ただ今戻りました』
『テッちゃん、テッちゃんでしょう、ほんとにテッちゃんなのね』
『戻ってたなら、どうして連絡くれなかったの?』
『申し訳ありません、帰還は機密だったので』
『いいのよ、無事でいてくれて…その杖、どうしたの?』
『戦地で、負傷して…』
『大丈夫なの?』
『たいした怪我じゃないので』
『それなら良いのよ、とにかく無事に帰ってくれておばさんホッとしたわよ』
叔母は、涙を流して無事の帰還を喜んでくれた。


別れ際に徹路は思いきって切り出してみた。


『あの…、ユウちゃんは?』
『それがねー…、テッちゃんが出征してから、親の薦めで海軍の、将校さんとお見合いしてね、…それですぐに結婚してね。』
『なんだ、そうだったのか、おばさんの手紙は、病院船にいたとき届いてたけど、ユウちゃんはどうしたかなと思ってたんだ、良かったね。』
自分で切り出しながら、取り急ぎ、この話題から離れようとわざと素っ気なく答えてしまった。
『それが…、そうじゃないんだよ』
『そうじゃないって?』
『今年になって、ついこの前だよ』
『戦死の知らせが来てね。』
『未亡人に成っちまったんだよ』


祐子の、ご主人は海軍の青年将校だったが、1942年6月5日のミッドウェー海戦で戦死したのだった。


『おなかに赤ん坊が居てね』
『旦那さんは今度帰った時は、生まれた赤ん坊に会えることを楽しみにしていたそうだよ。』
『なんなら会ってくかい』
『茗荷谷のお宅でご主人の帰るのを待ってたんだよ』
『今もそこに住んでる筈だよ、案内したげても良いよ』
『…ヤッパリよしておく、おばさんから宜しく伝えておいて。』


徹路は、時の流れの早さと、戦争の無情さに、何とも遣る瀬ない気持ちになった。


これが叔母との最後の別れだった。


<続く>

[2007/12/09 16:07] 鉄道小説 | TB(0) | CM(0)

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